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Kind of Jazz Night

さんふらわあ JAZZ NIGHT 初代プロデューサー
大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
うろたえず、媚びない。
そんなジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。


撰者
大橋 郁
松井三思呂
吉田輝之
平田憲彦

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第128回

TOKI
土岐英史
撰者:松井三思呂



4月になりました。今ちょうど桜が満開です。サイモンとガーファンクルの「4月になれば彼女は」が、頭のなかで鳴っています。

何とか3月中にコラムをアップしようとしていたのですが、3月は年度末で、公私ともにバタバタ!
結局、4月にずれ込んでしまいました。遅くなって、すみません。

さて、今回は3月に参戦したジャズのイベントがらみのネタです。



もっとジャズファンの裾野が広がれば良いと思っている。特に、若い人の。それが放浪派コラムを続けている理由のひとつでもある。

ただ、当然のことながら、文章を読むことよりも、音楽は楽しく聴くものだ。
よって、生演奏に接することが大きなきっかけになるけれども、若いビギナーにとって、いわゆるジャズクラブは少し敷居が高いのではないだろうか。

こんなことを感じていたところ、この3月、「こんなイベントなら、これまであまりジャズを聴いたことがない人でも・・・」と思える二つのイベントを体験することができた。

この二つのイベントに共通する素晴らしさは、主催者や運営スタッフの情熱と手作り感、演奏側の真剣味、そして演奏を受け止める観客が一体となって楽しむこと。なかなか、この三拍子が揃ったライヴと遭遇することは稀だ。

一つは元町のジャズバーDoodlin’のマスター、チャチャイさん主催の「波止場ジャズフェスティバル2015」。
2015年3月7日、8日の2日間にわたり開催され、私は8日のジェームズ・ブルーズランドに参戦した。
8日は合計5バンドが出演。



波止場ジャズフェスティバル2015
主催:Doodlin'
【イベント情報】

放浪派コラムの管理人、平田さんのギターがカッコ良かった“ナマズDX”のブルーズで幕を明けたイベントは、ディキシーランド・ジャズバンド、ニューオーリンズ・ブラスバンドと続き、ジャズのオリジンをひもとく歴史絵巻の様相。

チャチャイさんのブッキングの妙、それに応える演奏者の真剣さで雰囲気も最高潮となったところで、お目当ての橋本有津子withライト兄弟の登場となった。

橋本有津子さんのトリオは、去年の「波止場ジャズ」で初体験。あまりの凄さに開いた口がふさがらない状態に陥ったが、今回も前回に勝るとも劣らない神がかった演奏で、観客のなかには興奮のあまり涙を流す人までいたとか。

初体験の大橋さんもノリノリ、数えきれないくらい彼とはライヴに行っているが、彼がここまでうれしそうにしている姿を見たのも本当に久しぶりだ。まさに、オルガンの女神が舞い降りた瞬間であった。
※ フライヤーの画像掲載は主催者の了解を得ています。

「波止場ジャズ」のネタはこれくらいにして、今回のコラムの主役、土岐英史(ひでふみ)さんとハットンの方に話題を移したい。

二つ目のイベントは「In the Mood vol.4」。土岐英史プレミアムライヴとして、3月12日にチキンジョージで開催されたもの。

このイベントの主催者がハットンこと波戸岡正章クン。彼は昨年5月まで北野でBAR幻のマスターをやりながら、湊川市場でケーキ屋を営むサンドリオングループの代表として、今も活動している。

ともかくエネルギッシュな男で、寝る暇があるのかと思うくらい神戸の各種イベントに積極的に関わっている。
彼と知り合うことになったのは、友人にBAR幻へ連れていってもらい、音楽やサッカーの話をしたことがきっかけだが、彼が「師匠」と呼ぶ土岐さんとの出会いは最高のエピソードだ。

ここでは、「In the Mood vol.4」の直前に、ハットンがFacebookにアップした内容を一部編集して引用させていただく。
※ エピソードの紹介については、土岐さんと波戸岡クンの了解を得ています。



〈In the Moodシリーズへの想い〉波戸岡正章

 昨年5月まで北野でちょうど3年間営ませていただいたBAR幻で、カウンターに立っていると、多くの濃い〜方たちとお話が出来ました。

 とある2年目の春の出来事。
 普段は一応会員制とさせていただいていたところ、一見さんお断りという訳ではないが、低い扉をくぐり、笑顔で「いいですか?」と入ってきたので、喜んで招きいれました。

 そのお客様が、「君の選曲はオジさん好みだね〜、じゃあCHICKENSHACKをかけて」
 聴いた事がありません。「すぐにお調べします」とPCでYou Tubeを起動し、大画面テレビで動画を流しました。

いきなり美しいサックスの音色からムーディーな曲が始まりました。
その時、お客様が「もっとボリューム上げて!」
店内には他にお客様がいなかったので、ボリュームを一気に上げました。
すると、暗い店内がライヴハウスのように臨場感がプラスされて、自分で言うのもなんですが、一気にカッコいい空間に変わったんです。
moodって、感じれば感じる程に感覚が冴えてくるというか、入り込んでいくような状態になるんですよね。

 初めて聴いたその曲のタイトルをメモし、他の動画も見ました。
 お客様曰く、昔マニアの中ですごく流行ったグループらしく、僕も一気にハマりました。
そして、ネットでお客様と一緒に調べると、CHICKENSHACK は25年ぶりの再結成をして、レアなライヴが東京ブルーノートとビルボード大阪であるという奇跡的なタイミングだったんです。

で、お客様がこのサックス奏者は土岐英史というんだよと教えてくれました。
その方も学生時代に相当ハマったみたいで、久しぶりにサウンドを聴いてテンションMAXでした。

 土岐英史でネット検索すると、個人ホームページが出てきて、スケジュール表を確認すると、なんとこれまた奇跡!
 来週、新開地音楽祭に来るやん! っていうか大トリのサックス奏者の人やったんや! という驚愕の事実。

という事で、新開地音楽祭に行き、土岐英史さん本人に突撃訪問したのが初対面でした。
その時に、先週初めて土岐さんのサックスを聴いたと言い、続けて東京、大阪ライヴどっちも行きますと言い、その日は別れました。

翌月、一週間の休暇をいただき大阪ライヴに行き、その翌日、東京へ移動しブルーノートに行きました。
 もうなんというか、無我夢中で土岐サウンドを聴き倒して追いかけました。
土岐さんと個人的にやり取りするようになり、月に一度レッスンが神戸であるという事で、いつかウチの店にも行きますねと言ってくれました。

 翌月、近所にあるバーの男爵様が扉を開けて、わざわざ土岐さんを道案内して入口まで連れてきてくれたんです。
 その日、結局6時間滞在されまして、色々な話をしたのを今でも覚えています。
 また、土岐さんも僕の選曲に対して、オッさんやなぁと言いリクエストをしました。
 それが、The Whispersの「In the Mood」という曲でした。
 その時に、土岐さんの音楽への想いをさらに知る事が出来ました。
 閉店のお知らせと今後の展望について話したら、土岐さんの神戸への特別な想いを聞く事が出来ました。

 その時にイベントオファーをさせていただき、後日OKをいただきました。
それが前回の5/1、初回のイベントで、スケジュールの合間を縫っていただき登場してもらえる事になりました。
 そしてタイトルをIn the Moodに決定しました。
 新開地音楽祭前のタイミングに合わせました。

 奇跡はこれだけでは終わりませんでした。
CHICKENSHACKをリクエストされたお客様が初来店された日がふと気になったんです。確か、新開地音楽祭の一週間くらい前だったような・・・
 伝票を月ごとにまとめている一番上に、5/1◯◯様と書いてました。
 In the Moodが5月1日。イベント日がちょうど一年前だったんです。

 土岐サウンドを初めて聴いた日から1年で憧れの本人が登場という奇跡すぎる奇跡。
 それをお客様に伝えると、本当にすごく喜んでくれました。
その話を土岐さんに話すと、当日演奏する曲に「Your Birthday」という最高に素敵な曲をチョイスしていただきました。

 そして、イベント当日は満員御礼。多くの方にお越しいただきました。
 このような最高の雰囲気を創り出すイベントのシリーズを拡げていきたいと決心つきました。



以上がハットンの言う奇跡だが、私は決して奇跡だとは思わない。むしろ、彼が土岐さんに惚れ込んで、行動したことがもたらした必然の結果だと思う。

さて、もう一人の主役の土岐英史さんは、1950年2月1日神戸生まれ。中学時代からクラリネットとサックスを始め、大阪音大付属高校クラリネット科、大阪音大サックス科に進む。

高校入学後16歳でプロデビュー、自由ヶ丘「5スポット」、新宿「ピットイン」、「タロー」などのジャズクラブで多くのミュージシャンとセッションを重ねる。
鈴木勲グループ、宮間利之とニューハード、日野皓正クインテット、川崎燎クインテット、板橋文夫カルテットを経て、74年に渡辺香津美、井野信義、スティーブ・ジャクソンとともに土岐英史カルテットを結成し、新宿ジャズ賞を受賞する。

その後、松岡直也&ウィシングなどにおけるライヴ活動、スタジオワークや、音楽院での後進の指導など、多方面で活躍。85年にはCHICKENSHACKを結成し、2013年6月にリリースされた『CHICKENSHACK Ⅶ』まで、通算10枚のアルバムを残している。

77年からは30年以上にわたって山下達郎バックバンドのメンバーとしても活動。土岐さんの名前を知らない人でも、達郎の「Ride On Time」のサックスソロと言えば、頷く人も多いだろう。

また、お嬢さんの土岐麻子さんは有名な歌手。英史さんとの共同プロデュース作品『STANDARDS〜土岐麻子ジャズを歌う』(2004年)でソロ活動をスタートさせ、スタンダードからCMソングまで幅広く音楽活動を展開している。

土岐さんのプロフィールから、3月12日のイベント「In the Mood vol.4」の話へ。

当日のメンバーは、
土岐英史(as、ss)
山口マリ(as)
TAKU(g)〔from 韻シスト〕
祖田修(key)
清水興(e-bass)
マーティー・ブレイシー(ds)
という強力な6人。

実を言うと、私の土岐さんライヴ初体験は、ハットンが突撃訪問した一年前の新開地音楽祭。「師匠」という言葉どおりの完璧なテクニックと、素晴らしい音色に酔いしれた記憶がある。

今回の「In the Mood vol.4」ももちろん文句なし。演奏者が真剣に、かつ心から楽しんで演奏していた。最高のライヴだった。

土岐さんの「誰か誕生日の人いる?」というMCに続き、友人のKちゃん(3月12日生れ)に捧げられた「Your Birthday」には身震いした。アルトサックスをこれほどまで美しく鳴らすことが・・・。
わかりやすいメロディの曲で、是非チェックしてみて欲しい。
https://www.youtube.com/watch?v=yafBYpc3KAM

ところで、イベント前にハットンのFacebookを見ていたので、彼に「このエピソード、放浪派のジャズコラムに書いていいかな?」と連絡したところ、彼から「僕は大丈夫ですけど、土岐師匠はどうですかねぇ〜。何せ、シャイな人ですから。ライヴ終わりに直接訊いてみて下さい!」

という訳で、演奏終了後、土岐さんにお願いすると、「ああ、いいですよ!」と快諾をいただいた。
それと、せっかく直接お話できたのだからと、一枚のアルバムにサインをお願いした。サインをしながら、「これは流石にちょっと恥ずかしいねぇ」と、シャイな一面も。

土岐さんに「ちょっと恥ずかしいねぇ」と言わせたアルバムは、『TOKI』。ようやく、今回のコラムの一枚を紹介することができたが、和ジャズの良心スリーブラインドマイス(TBM)から75年にリリースされた師匠の初リーダー作だ。




TOKI
Hidefumi Toki
【Amazon のディスク情報】

『TOKI』(TBM-46)
土岐 英史(ss、as)
渡辺 香津美(g)
井野 信義(b)
Steve Jackson(ds)
1975年5月17日 東京都港区アオイスタジオで録音


今からちょうど40年前、土岐さんが25歳の時の演奏で、A面1曲目の11分にも及ぶ「Lullaby For The Girl」から圧倒される。
ソプラノによるモーダルで長尺な演奏となれば、ジャズ親父の悪いところかもしれないが、どうしてもコルトレーンが頭に浮かぶ。
しかしながら、この曲は師匠のオリジナルで、完全に土岐さんワールド! このリズム隊を従えて、コルトレーンが吹いても、全く違うものとなったと思う。

2曲目の「Darkness」、土岐さんオリジナルのバラードで、アルトに持ち替えて演奏されている。もう何も言うことはなく、蕩けるサウンドとはこのような音色を言うのだろう。

高校時代から多くのセッションを経験しながら、大阪音大ではクラシックのサクソフォーンを学んだ(現在も大阪音大の特命教授)というキャリアがあるとはいうものの、25歳でなかなかこんな音は出ません。早熟の天才だ。

しかし、土岐さんの凄いところは、この初リーダー作でひとつの完成形を提示しながらも、この時点から現在までこれっぽっちも守りに入ることなく、新しいものを吸収し、音楽家として進化し続けているところ。そのことが、サインをお願いした時、「ちょっと恥ずかしいねぇ」という言葉になったのかもしれない。

藤井健夫氏のライナーによれば、レコーディング時の土岐カルテットは絶好調で、A面1曲目を除いて録音は全てワンテイクOK! TBMのレコーディング史上、最も短時間で録音された作品らしい。

その好調さは、B面3曲目の「Old Song Blues」でも現れている。渡辺香津美〜井野信義〜Steve Jacksonのリズム隊も鉄板で、特に渡辺香津美は神がかった切れ味を見せる。

改めて75年当時、「ピットイン」や「タロー」などで、演奏を繰り広げていたミュージシャンのレベルの高さを思い知らされた次第。
調べてみると、75年6月の「ピットイン」夜の部(当時の「ピットイン」は朝、昼、夜の三部構成)では、一ヶ月の出演回数で土岐4が3回と渡辺貞夫4、本田竹曠3、ジョージ大塚5と並んで最多。耳の肥えた「ピットイン」のお客さんにも、土岐カルテットは人気を博していたようだ。

そこで、もう一枚、どうしても紹介したいアルバムがある。
大友義雄と土岐さんの双頭リーダー作『LOVER MAN〜アルト・マッドネス』で、このアルバムは双頭リーダー(大友義雄の初リーダー作)となっているが、メンバーを見れば分かるように、土岐カルテットに大友が客演したもの。

TBMが主催した「5 DAYS IN JAZZ’75」のなかの3日目、「チャーリー・パーカーに捧げる夕べ」のライヴ盤で、『TOKI』の9日後の録音だ。



Lover Man
Hidefumi Toki
【Amazon のディスク情報】

『LOVER MAN〜アルト・マッドネス』(TBM-51)
大友 義雄(as)
土岐 英史(as)
渡辺 香津美(g)
井野 信義(b)
Steve Jackson(ds)
1975年5月26日 東京都千代田区日本都市センターホールで録音


元来、サックスのバトルものには目がない私だが、このアルバムは約30年前に手に入れて以来、どういう訳かレコード棚の肥やしと化しており、全く聴いていなかった。ところが今回改めて聴いてみて、正直ぶっ飛んだ。アルバムの冒頭、「Scrapple From The Apple」

放浪派第6回コラム「フィル・ウッズ祭り〜アルトサックス・バトルロイヤル」でも取り上げているように、この曲は『Phil Talks With Quill』に収録されているバージョンにとどめを刺すと、私はこれまで考えていた。このこともあって、『Phil Talks With Quill』は私の無人島レコード、いやいや墓場まで持っていくということで、棺桶に入れてもらうレコードだと広言してきた。

しかし、『LOVER MAN〜アルト・マッドネス』を聴くと、この広言がかなり怪しくなってきた。この5人の「Scrapple From The Apple」には驚愕した。
ウッズ〜クイルのバージョンを超える超高速テンポで繰り広げられる2本のアルトのバトル。お互い全て手の内をさらけだし、ともかく熱い、ガッツのある演奏だ。この2本のアルトを食っちゃう勢いが渡辺香津美、この人も凄すぎる。



まあ文章で書いても・・・で、ともかくこの2枚のアルバムを聴いてみてください。アナログのオリジナル盤はかなり高価ですが、CDなら比較的入手しやすいと思います。

今回のコラムはイベントのレポートになってしまいました。ただ、繰り返しになりますが、ハットンやチャチャイさんのように、良い意味でのアマチュアリズムを持った人達が、ジャズのイベントをどしどしプロデュースしていって欲しいと思っています。
これからも応援します。

それと、新開地音楽祭5月10日のメインステージ、今年も大トリは土岐師匠! 今から楽しみ!


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