大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
うろたえず、媚びない。
そんなジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。
大橋 郁
松井三思呂
吉田輝之
平田憲彦
撰者:松井三思呂
4年に一度のお楽しみ、サッカー・ワールドカップが現在進行中です。日本代表は期待が大きかっただけに、グループリーグ敗退直後は私もいろいろ吠えていましたが、落ち着いた今は「ご苦労さま」と言いたいです。決勝トーナメントもこれからが佳境、お楽しみはまだまだ続きます。
※
今回のコラムはユル〜イ感じで、私のレコード棚からひとつかみ、山下達郎のラジオ番組「サンデー・ソングブック」で有名な「タナツカ」でお送りしたい。ただ、「タナツカ」と言っても、脈絡もなくアルバムを紹介するというのも何なので、ここはテーマを決めたいところ。
さて、友人のソムリエに聞いた話。ワインの世界にもいわゆる「ジャケ買い」があるらしい。ワインのラベルなどの外見に惚れ込んでしまい、中身をテイスティングしないで、買ってしまうことが多々あるとか。
もともと、「ジャケ買い」はレコードコレクター業界で使われている言葉だが、このようにワインの業界でも使われているとは知らなかった。
ジャズの「ジャケ買い」のなかでも、何と言っても最大派閥は「美女ジャケ」だ。特に、白人女性ヴォーカルの「美女ジャケ」コレクターは数多い。
これはジャズのコレクター業界が圧倒的に男性優位である以上、本能的にどうしようもないことだが、「黒人音楽としてのジャズ」に拘り続けているせいか、私は白人女性ヴォーカルがいたって疎く、アルバムもほとんど所有していない。
ただ、男子である以上、「美女ジャケ」、「艶ジャケ」、「SEXYジャケ」といったお色気系には心躍るわけで、そういう見方でレコード棚を眺めて思いついたテーマが、ブルーノートの「美女ジャケ」!!!
という訳で、今回と次回の2回にわたって、リーダー楽器別に私の持っているアルバムからブルーノートの「美女ジャケ」を紹介。今回はリーダーが管楽器以外のものをお届けする。
※
【ヴィブラフォン部門】
Happnings
Bobby Hutcherson
【Amazon のディスク情報】
★HAPPENINGS/Bobby Hutcherson(Blue Note 4231)
<メンバー>
ボビー・ハッチャーソン(vib,marimba)
ハービー・ハンコック(p)
ボブ・クランショウ(b)
ジョー・チェンバース(ds)
<写真&デザイン>
リード・マイルス
<録音>1966年2月8日ルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオ
<ジャケット>
実を言うと、今回の企画を思いついた時、最初に頭に浮かんだものが本アルバム。リード・マイルスお得意のモノトーン(予算の制約で多色刷りができなかったという裏事情があったらしいが・・・)だが、ショッキングピンクの色合いがバツグン!そのうえ、モデル風のおネエさんのポーズが艶めかしく、60年代を強く意識させる風貌。ブルーノートの「美女ジャケ」と言えば、万人が思い浮かべるアルバムではないだろうか。
<キメの1曲>
月並みだが、「処女航海」。ハンコックのオリジナル録音4195と聴き比べてみると、こちらの方が少しテンポアップした演奏だが、管楽器が入っていないこともあり、クールでソリッドな印象。オリジナルがジャズ喫茶やジャズバー向けであるのに対して、こちらはリゾートホテルのプールサイドでシャンパン・・・といったイメージか。
【ギター部門】
Blue Lights Vol.1,2
Kenny Burrell
【Vol.1, Amazon のディスク情報】
【Vol.2, Amazon のディスク情報】
★BLUE LIGHTS VOL.1,2/Kenny Burrell(Blue Note 1596,1597)
<メンバー>
ルイ・スミス(tp)
ジュニア・クック、ティナ・ブルックス(ts)
ケニー・バレル(g)
デューク・ジョーダン、ボビー・ティモンズ(p)
サム・ジョーンズ(b)
アート・ブレイキー(ds)
<デザイン>
アンディ・ウォーホル、リード・マイルス
<録音>1958年5月14日マンハッタン・タワー・スタジオ
<ジャケット>
ブルーノート究極の美女ジャケ、ウォーホルの逸品!無名時代のウォーホル自身がケニー・バレルのファンで、自分からアルフレッド・ライオンに会いに行き、その場で書き上げたものが「KENNY BURRELL VOL.2」(Blue Note 1543)のジャケ画。本作品はそこからの流れで描かれたものだろうが、線の抑揚(“blotted line"と呼ばれ、ウォーホルの得意技らしい)が何とも粋だ。
<キメの1曲>
ブローイング・セッションという感じで、フロント陣も玄人好みのメンバー。そのメンバーも入れ替わり、様々な組み合わせの演奏が聴けるが、ここではバレルのギターが満喫できる「ニューヨークの秋」(VOL.1のB面1曲目)。バレルにティモンズ、ジョーンズ、ブレイキーのリズム隊が付き合う。ともかく渋い!大人の色気プンプンで、ジャケットにピッタリの内容だ。
【ピアノ部門】
Sweet Honey Bee
Duke Pearson
【Amazon のディスク情報】
★SWEET HONEY BEE/Duke Pearson(Blue Note 4252)
<メンバー>
フレディ・ハバード(tp)
ジェームス・スポールディング(as,fl)
ジョー・ヘンダーソン(ts)
デューク・ピアソン(p)
ロン・カーター(b)
ミッキー・ローカー(ds)
<写真>フランシス・ウルフ
<録音>1966年12月7日ルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオ
<ジャケット>
ピアノ部門はいろいろと候補が多く、何にするか迷ったが、大橋さんにこのコラムの企画を話した時に推薦を受けたアルバムを。一言で言えば「爽やかな美女ジャケ」。この爽やかさ、古くは日活青春映画の浜田光男と吉永小百合、私的には日テレ青春ドラマシリーズ、特に「おれは男だ!」の森田健作と早瀬久美などを連想させる。
実際のモデルは、ピアソン本人と奥さんのベティらしい。それを知って、ジャケットを改めて眺めると、ピアソンが奥さんに頭が上がらない稼ぎの悪い旦那というようにも見えてくる。それで、「スウィート・ハニー・ビー」とは出来過ぎだが、奥さんに捧げられた曲であることは間違いないようだ。
<キメの1曲>
何と言っても、タイトル曲「スウィート・ハニー・ビー」。リー・モーガンの「ザ・サイドワインダー」からの影響も感じられるジャズ・ロック。デューク・ピアソンは作曲、アレンジの才能も豊かで、ブルーノートの音楽監督を務めたが、この曲でもまさに「スウィート・ハニー」なメロディと、ジェームス・スポールディングのフルート起用に才能が表れている。ミッキー・ローカーはこの時代ならではの8ビートで、微笑ましい。
【オルガン部門】
Crazy Baby
Jimmy Smith
【Amazon のディスク情報】
★CRAZY BABY/Jimmy Smith(Blue Note 4030)
<メンバー>
ジミー・スミス(org)
クェンティン・ウォーレン(g)
ドナルド・ベイリー(ds)
<写真>ボブ・ガンリー
<デザイン>リード・マイルス
<録音>1960年1月4日ルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオ
<ジャケット>
オルガン部門も候補作が多かったが、ブルーノートを代表するオルガン奏者の一枚を。4030番にして、ブルーノートもようやく女性モデルを起用して、総天然色、フルカラー!それもこれも、稼ぎ頭であったジミー・スミスのなせるわざか。この時代、黒人青年の憧れの対象であった「車(ジャガー)」と「美女」を前面にして、幅広く購買層を開拓したかった意図が感じられる。1960年の作品だが、女性のファッションは今でも全く時代遅れな感じがしない。
<キメの1曲>
ハモンド・オルガンという楽器には、ギター、ドラムスというトリオ編成が最も合っているように思える。3月の波止場ジャズフェスで聴いたハモンドB3のマイスター、橋本有津子さんのトリオも同じトリオ編成。素晴らしいグルーヴ感であった。
さて、キメの1曲。B面の「ソニームーン・フォー・トゥー」、「マック・ザ・ナイフ」、「ホワッツ・ニュー」と続くロリンズ関連曲も素晴らしい出来だが、何と言っても「チュニジアの夜」にはビックリさせられる。フットペダルのベース音と左手のコードに支えられ、右手が縦横無尽に駆け回る。テーマの解釈があまりにも斬新で、面くらう向きもあるが、ハモンドB3を鳴らしまくっているパフォーマンスは見事だ。
※
リーダー楽器別の「この一枚」はここまで。最後に「番外編」として、簡単に3枚のアルバムを紹介したい。
【番外編】
Moods
The Three Sounds
【Amazon のディスク情報】
★MOODS/The Three Sounds(Blue Note 4044)
「番外編」と言うより、「グループ部門」と言うべきか。モデルはこの録音の6年後に、アルフレッド・ライオンと結婚するルース・メイソン。
安心感はあるものの、面白みに欠けるグループではあるが、アルバムを売ったことは事実。キメの1曲は、「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」。バーボン・ソーダにぴったりのアテ!
The Tokyo Blues
Horace Silver
【Amazon のディスク情報】
★THE TOKYO BLUES/Horace Silver(Blue Note 4110)
ホレス・シルヴァーのアルバムカヴァーには、女性を起用したものが少なくない。そのなかでも、このアルバムは着物の大和撫子が登場。向かって左側の女性は、出光興産創業者の出光佐三氏の四女、出光真子さん。彼女は早稲田の第一文学部在学中に、ニューヨークでシルヴァーと知り合い、62年1月の初来日時に再会して、親しい間柄となった。その後、彼女がニューヨークに留学している時、シルヴァーのリクエストで、フランシス・ウルフの手により撮影されたものが、この写真だ。
大変残念なことに、ホレス・シルヴァーはこの6月18日、85歳でこの世を去った。ここに、心からご冥福をお祈りしたい。
キメの1曲は、当然「サヨナラ・ブルース」!
Cool Struttin'
Sonny Clark
【Amazon のディスク情報】
★COOL STRUTTIN'/Sonny Clark(Blue Note 1588)
「これが美女ジャケ?」という声も聞こえてきそうだが、フェティシズム満載ということでお赦しを!
それと、このような企画で取り上げないことには、放浪派コラムでこの超有名盤が永遠に取り上げられることはないと思ったことも理由のひとつ。
もうひとつの理由は、最近、本アルバムの完全なオリジナル盤を聴く機会に恵まれたこと。正直に言って、「これまで私が聴いてきたファーマーやマクリーンは何だったのか?」と思うほど、分厚い音であった。お値段は6ケタに届くもので、コレクターでも容易に手が出せるものではないが、一度あれを聴いてしまうと、リイシュー盤など買えなくなってしまう気持ちも理解できる。
そんな気分にしてくれたキメの1曲、「クール・ストラッティン」!
Copyright 2010- Banshodo, Written by Iku Ohashi, Sanshiro Matsui, Teruyuki Yoshida, Noriiko Hirata, All Rights Reserved.