大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
うろたえず、媚びない。
そんなジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。
大橋 郁
松井三思呂
吉田輝之
平田憲彦
アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ
撰者:大橋 郁
3月の声を聞いても、まだまだ寒い日々が続きますね。この歳になると、年々寒さがこたえるようになり、本格的な春が待ち遠しいところです。
今回は本編に入る前に、少し『あまちゃん』のことを。
「何をいまさら『じぇじぇじぇ!』なの?」と言われそうですが、何も能年玲奈や、キョンキョン、薬師丸ひろ子ではなくて、音楽を担当した大友良英です。
元々、スポーツ番組以外はあまりテレビを観る習慣がない私のこと、「ムチャクチャ面白い!」という声は耳にしていましたが、リアルタイムで『あまちゃん』を観ることはありませんでした。
ただ、どこかで『オープニングテーマ』や、「これぞ、アイドル歌謡!」の『潮騒のメモリー』は耳に残っていました。
そんななかで、正月休みにNHKでやっていた『即興が世界をつなぐ 〜大友良英と“音遊びの会”の仲間たち』という番組を観て、ビックリ!!!
読者の皆さんのなかには、ご存知の方も多いと思いますが、大友良英は明治大学ジャズ研在籍中からギターを高柳昌行に師事し、フリージャズをルーツとするアヴァンギャルドな音楽を追求する一方で、映画やテレビドラマの音楽を担当するなど、非常に幅広い音楽活動を行ってきた人。
そんな彼の活動のひとつに『音遊びの会』があります。『音遊びの会』とは、知的障害者と家族、ミュージシャンや舞踏家などのアーティスト、音楽療法士が集まり、即興演奏による“新しい音楽”を生み出す活動を行っているグループ。9年ほど前に、神戸大学の大学院生が中心になって立ち上げた非常にユニークな集団です。
大友良英は結成直後からのメンバーで、NHKの番組は『音遊びの会』のUKツアーを密着取材。ロンドンやグラスゴーで絶賛を浴びる様子を映し出していました。
フリージャズ畑のアーティストは、前回のコラムの主役を務めた山下洋輔や坂田明など、多芸な人が多いように感じますが、大友良英もその一人で、これからも注目していきたい人です。
※
さて、本編に入り、今回のテーマはアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ(以下「JM」という。)のリヴァーサイド3部作!
3部作とは、『キャラバン』(RLP 438)、『ウゲツ』(RLP 464)、『キョウト』(RLP 493)。リヴァーサイド3部作と聞いて、たちまちこの3枚のアルバムがすらすらと出てくる人は、JM中毒が相当に進行している。
というのも、有名なマイルスのプレスティッジ4部作などとは違って、この「3部作」は一般に使われているものではなく、今回のテーマを考えた時に、たまたま私が思いついた代物だから。
では、なぜJMなのか?
私が前回のコラムを書き上げた後のある日、コテコテ・ジャズの牙城、あるいはハードバップの迷宮とも言うべき元町のジャズバーDoodlin'で一杯やりながら、マスターのチャチャイさんとブルーノートのキング盤と東芝盤の違いなんかで、話が盛り上がっていた時、
マスター「放浪派コラムも100回超えましたけど、誰もメッセンジャーズを書いてないですよね。」
私「そう言えば、不思議と誰も書いてないなぁ・・・。」
マスター「松井さん、書いてみてくださいよ。」
私「前回は山下洋輔でかなり重たい内容やったし、肩の力抜いて、メッセンジャーズいっちゃいますか!」
安請け合いしたものの、はたと困った。
何と言っても、JMはモダンジャズ史上に残る名門コンボ。40年近い活動期間のなかで、『カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ Vol.1/2』(Blue Note 1507/1508)を手始めに、名盤は数知れず。
私のレコード棚にも20枚を超えるアルバムが並んでいるなか、何を選ぶか思い迷っていたところ、フェイスブックのフィードにチャチャイさんが、「今日の一発目」で『ウゲツ』をアップ!
「これ、これ、これですや〜ん!!!」と飛びついた。
UGETSU
Art Blakey and the Jazz Messengers
【Amazon のディスク情報】
『UGETSU』(Riverside RLP 464)
フレディ・ハバード(tp)、カーティス・フラー(tb)
ウェイン・ショーター(ts)、シダー・ウォルトン(p)
レジー・ワークマン(b)、アート・ブレイキー(ds)
1963年6月16日 ニューヨーク「バードランド」でのライヴ録音
バンドメンバーの入れ替わりはあるものの、メッセンジャーズの歴史は前期の2管編成時代と、後期の3管編成時代に分けられる。
もちろん、2管メッセンジャーズも大好きだが、多くの批評家やJMファンが語っているように、私もこのリヴァーサイド3部作のメンバーがJM史上最強の布陣であったと思う。
また、この時期はウェイン・ショーターが音楽監督としてバンドを掌握しており、そのあたりのことはシダー・ウォルトンに焦点を当てた第94回のコラムでも触れている。今回のコラムはその続編として読んでいただきたい。
3管メッセンジャーズはいろいろなレーベルに録音を残しているが、このJM史上最強の6人によるアルバムは、リヴァーサイド3部作と『フリー・フォー・オール』(Blue Note 4170)だけだ。
加えて、JMは「ハードバップが誕生した夜」と言われる『バードランドの夜 Vol.1/2』(Blue Note 1521/1522)(正確には「アート・ブレイキー・クインテット」というクレジット)以降、バードランドでのライヴ録音を数多く行っている。
言わば「バードランド」はホームグラウンドであって、『ウゲツ』はそのホームでのライヴ。リラックスしたなかでの真剣味が何とも言えない。
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ところで、一般的には3管メッセンジャーズと言えば、ブルーノートの『モザイク』(Blue Note 4090)、『ブハイナズ・ディライト』(Blue Note 4104)、『フリー・フォー・オール』(Blue Note 4170)が傑作と評されている。
もちろん、私もこれらのアルバムは大好きだし、傑作という評価にも異論はない。ただ、ブルーノート、ひいてはアルフレッド・ライオンのポリシーと言えばそれまでだが、どうしても「作り込んでいる」印象がある。
そして、94回のコラムでも書いたように、音楽監督ショーターがアルフレッド・ライオンの顔色を窺っているようにも思える。
これに対して、リヴァーサイドの3作は良い意味で肩の力が抜けている。ショーターに与えられた自由度も高いように感じる。
自由と言っても、ショーターには自分に課した使命があった。それはこのバンドで、JM伝統のドライブ感とファンキー時代のキャッチー感の両方に、モードという理論をブレンドして、バンドの新しい「音」を創ることだったのだろう。
『ウゲツ』はショーターがこの使命を全うし、バンドが完全に一体となって、JMの新しい「音」を創りきったアルバムで、3管メッセンジャーズの代表作だ。
そして、『ウゲツ』はタイトルどおり、ブレイキーの日本指向が溢れ出した作品でもある。
ブレイキー親分は大変な親日家で、そのきっかけとなったのが61年の初来日。彼が帰国時に残した言葉がそれを物語っている。
「私は今まで世界を旅してきたが、日本ほど私の心に強い印象を残してくれた国はない。それは演奏を聴く態度はもちろん、何よりも嬉しいのは、アフリカを除いて、世界中で日本だけが我々を人間として歓迎してくれたことだ。」
JMは『ウゲツ』がレコーディングされる半年前の63年1月に、『ウゲツ』と全く同じメンバーで2回目の来日を果たしている。
そこで、タイトル曲の「ウゲツ」。 親分が「ウゲツとは日本語でファンタジーの意味」と、曲紹介のMCをするシダー・ウォルトンの名曲で、90回のコラムでも紹介したように、後年シダーはこの曲を「ファンタジー・イン“D”」と改題して、頻繁に演奏していたようだ。
タイトルは上田秋成の「雨月物語」に因んだものらしいが、物語の内容は怪談で、ファンタジーというイメージとは少し違うように思える。もしかすると、1953年に溝口健二が監督を務めて、映画化された「雨月物語」と関係があるのかもしれない。
シダー・ウォルトンの知性的なイントロに導かれて幕を開ける演奏は、十八番の3管アンサンブルによるテーマの後、メンバーのソロに引き継がれていく。
フレディ・ハバード、ウェイン・ショーター、カーティス・フラー、シダー・ウォルトンの順に展開されるソロは、誰もがモード理論を完全に消化しきったもので、「大人のモード」だ。JM伝統のバイタルな魅力も十分。
『ウゲツ』にはもう1曲、日本指向の作品が収録されている。ショーター作の「オン・ザ・ギンザ」。63年1月の来日時、公演の合間にメンバーはスイングジャーナルの取り計らいで、白木秀雄と一緒にいわゆる“銀ブラ”を楽しんだ。この曲はショーターがこの時の銀座の印象をもとに作ったものだ。
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さて、『ウゲツ』はこれくらいにして、次は『キャラバン』と『キョウト』。
CARAVAN
Art Blakey and the Jazz Messengers
【Amazon のディスク情報】
『CARAVAN』(Riverside RLP 438)
フレディ・ハバード(tp)、カーティス・フラー(tb)
ウェイン・ショーター(ts)、シダー・ウォルトン(p)
レジー・ワークマン(b)、アート・ブレイキー(ds)
1962年10月23〜24日 ニューヨークのプラザ・サウンド・スタジオで録音
『キャラバン』は、ベースがジミー・メリットからレジー・ワークマンに代わった最初のアルバム。
ジミー・メリットが離れたことで、『モーニン』が録音された時のメンバーは、ブレイキー親分を除いて全員が入れ替わったことになる。
チャチャイさんによれば、ジミー・メリットは12歳年下のリー・モーガンを弟のように可愛がっていたようで、リー・モーガンが退団したことで、自分の退き時も考えていたのかもしれない。
表題曲「キャラバン」はバンドのマスターピース。ブレイキー親分のドラムソロが満喫できるナンバー。
もう1曲は「ウイ・スモール・アワーズ・オブ・ザ・モーニング」。カーティス・フラーを全面的にフィーチュアしたナンバーで、このバンドが何故フラーを必要としたのかの答えがここにある。
KYOTO
Art Blakey and the Jazz Messengers
【Amazon のディスク情報】
『KYOTO』(Riverside RLP 493)
フレディ・ハバード(tp)、カーティス・フラー(tb)
ウェイン・ショーター(ts)、シダー・ウォルトン(p)
レジー・ワークマン(b)、アート・ブレイキー(ds)
ウェリントン・ブレイキー(vo)(on Side1, track3)
1964年2月20日 ニューヨークで録音
『キョウト』はリヴァーサイド最終作で、この史上最強の6人による最後のアルバムでもある。
日本趣向はB面の2曲、「ニホンバシ」と「キョウト」。
「ニホンバシ」がスゴイ! 当時バークリー音楽院に留学していたナベサダが書いた曲で、さすがに日本らしさが醸し出されている。
ショーターのソロはコルトレーンを想起させる部分もあるが、全体として6人の個性のぶつかり合いに驚愕。何とも言えない浮遊感が感じられる演奏で、ジャズ・メッセンジャーズが残したひとつの到達点だろう。
「キョウト」はハバード作のワルツ曲。先発ソロのハバードは軽快そのもので、ショーターが創り上げたバンドサウンドは鉄板だ。聴き終わった時の充足感はハンパではない。
そして、この曲が終わると同時に、最強のジャズ・メッセンジャーズも終りを告げる。
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こんなところが、ジャズ・メッセンジャーズに対する私の想い入れです。ブルーノートも文句なしですが、リヴァーサイドの3管メッセンジャーズ、是非聴いてみてください。
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