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Kind of Jazz Night

さんふらわあ JAZZ NIGHT 初代プロデューサー
大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
うろたえず、媚びない。
そんなジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。


撰者
大橋 郁
松井三思呂
吉田輝之
平田憲彦

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第27回

イン・ザ・ワールド(前編)
クリフォード・ジョーダン
撰者:吉田輝之


【Amazon のCD情報】

こんにちは吉田輝之です。近畿地方も7月8日に梅雨があけました。
猛暑到来と予想しているとジメジメと雨が降る日が続き、今度は大型台風が来ると身構えていると日本列島を避けて行き、所詮天気は神様の領域で思った通りいかないもの。けど、人の世はもっと思った通りにいかないものよと感じ入るこの頃です。

さて今週の1枚ですが、とりあえず「In The World/Clifford Jordan」です。とりあえずの理由はおいおい述べますが、今回は副題がつきます。
題して「クリフォード・ジョーダンの伝説を追え!」です。



「クリフォード・ジョーダン」と聞き、どのようなイメージを持たれるだろうか。
もし、対象をジャズマニアではなく、無造作に幅広くジャズファン100人から、クリフォード・ジョーダンについて知名度を含めてアンケートを取ってみると

1位 「知らない」 38人
2位 「名前は知っているが、演奏は聴いたことがない」 25人
3位 「演奏を聴いたことがあるが、印象に残っていない」 16人
4位 「演奏を聴いて好印象をもった」 10人
5位 「クリフォード・ジョーダンの大ファンだ」 6人
6位 「その他」 5人

まことに勝手ながらだいだいこのような結果になるような気がする。
1位から3位までで79人、約8割の人があまり知らないと答えるような気がする。
4位の答えをした人はレコードを一度聴いたきり棚で眠っているような気がする。
5位の大ファンだと答えた人も60年前後のハードバップ期に限るような気がする。

そのイメージは、集約すると
「シカゴ出身の渋い味わいのあるテナーサックス奏者。無名ではないが、地味な存在」となるだろう。

しかし、実はクリフォード・ジョーダンにはこのイメージを覆す二つの「伝説」があるのだ。


【伝説 その1】クリフォード・ジョーダンは実は凄いサックス奏者だ!

話は今から34年前の1977年2月にさかのぼる。当時高校生だった僕は同級生の柴田君と大阪厚生年金会館にマックス・ローチの来日公演を聴きに行った。
柴田君はその当時よくあったレッド・ツェッぺリンやディープ・パープルのコピーバンドのドラマーだったが、ジャズドラムにも興味を持ち、マックス・ローチやバディ・リッチもよく聴いていいたので、マックス・ローチの公演を一緒に聴きにいくことになったのだ。
この時のマックス・ローチ・カルテットの演奏は実に凄まじく、それまで何人かの大物ジャズマンを含めジャズの生演奏を聴いた経験はあったが、初めて「本物」に出会ったと思った。

マックス・ローチも凄いが、テナーのビリー・ハーパーが何とも凄く、この後しばらくの間、日本のジャズ界はビリー・ハーパーの話題一色に染まった。

演奏の休憩時間に僕と柴田君が「すごい、すごい」と話をしていると、ジャズの演奏を聴きに来ている高校生が珍しいのか、隣に座っていた40代半ばぐらいの人が話しかけてきた。話をしてみると、その人は今まで来日したジャズメンの演奏は前回のマックス・ローチの公演を含め殆ど観ているという。
その時に、僕が「ビリー・ハーパーは凄いですね」と同意を求める発言をすると、その人は同意も否定もせず、こう答えたのだ。
「マックス・ローチが前回連れてきた“クリフォード・ジョーダン”は凄かった」と。

当時ジャズ初心者の僕は当然「クリフォード・ジョーダン」を知らない。しかし、この人(以降「Mr.Xさん」と呼ぶこととする)は暗にそのクリフォード・ジョーダンというのはこの凄いビリー・ハーパーよりさらに凄かったと言っているのではないか。
その後演奏が再開され、終わった後早く帰らなければならず(高校生が神戸から大阪まで出てきていたので、時間がないと焦っていたのだ)Mr.Xさんからクリフォード・ジョーダンの事を詳しく聞けず、軽く挨拶をした程度で別れた。
しかし、僕の頭の中には「クリフォード・ブラウンの“クリフォード”、危険な関係のブルースをつくったデユーク・ジョーダンの“ジョーダン”を合わせて覚えて“クリフォード・ジョーダン”」としっかりその名はインプットされたのだった。

公演後、当時神戸の主だったレコード屋(星電社、大蓄、ワルツ堂)に行ったがクリフォード・ジョーダンのレコードは当然なかった。データ配信もYOUTUBEもない時代、持っていないジャズのレコードを聴くにはジャズ喫茶でリクエストするしかない。
このため、神戸のジャズ喫茶はもちろん、大阪、京都を訪れるたびにジャズ喫茶に行っては彼の(今思えばおそらく)ブルーノート盤をリクエストして聴かせてもらったが、ウーン、何と言ったらよいのだろうか。悪くはないのだ。ハードバップの演奏としてイイのだ。
しかし、こちらの持っている「凄い」というイメージはわかない。

ここでいう「凄い」というのは、漢字で言えば「激」「豪」「爆」「暴」「剛」「絶」「超」「怒」、「厳」「突」「乱」「覇」「鋼」「魂」である。
対してクリフォード・ジョーダンの場合は「硬」「健」「雄」「良」「傭」といったイメージなのだ。

「他に、クリフォード・ジョーダンの凄さが聴けるレコードがあるのではないか」
「いや、この演奏が凄いと思えないのは自分の耳が未熟だからではないか」と思い悩み、しまいには、あのMr.Xさんは、名前がジョーダンだから「クリフォード・ジョーダンが凄いなんて、冗談だよーん」と純真でいたいけな高校生をだましたのではないかと疑う始末であった。
結局この伝説については頭の片隅にへばりついたまま忘れてしまった。


【伝説 その2】クリフォード・ジョーダンには凄いレコードがあるらしい!!

さて、それ以降も相変わらずクリフォード・ジョーダンは地味な存在で、たまにブルーノート特集で彼のレコードが取り上げられるぐらいであった。
しかし不思議なことに1990年代の中頃からクリフォード・ジョーダンの名前がポツポツとジャズの雑誌やジャズ特集のムック等に出てくるのだ。
何でも1972年に出された彼のレコードが“幻の名盤”になっているというではないか。レコードの題名は「In The World」。日本盤も過去リリースされたという。

曰く「ジャズ喫茶の名盤」「スピリチュアルジャズの大傑作」「70年台ジャズの金字塔」「CD化されていない最後の傑作」とすごい評が続いているが、当然のことながらそんなレコードがあること自体、僕は全然知らなかった。

雑誌に載ったジャケットは黒地に何か書かれているかまるでわからない。
レーベルはストラト・イースト。ストラト・イーストといえばビリー・ハーパーの「カプラ・ブラック」を出したところではないか。
しかし、どうもハード・バッパーのクリフォード・ジョーダンとはイメージが合わない。本当にこのクリフォード・ジョーダンはあのクリフォード・ジョーダンなのか。
だが、僕は同時に思った。「このレコードで聴けるクリフォード・ジョーダンこそが“本当に凄い”クリフォード・ジョーダンではないか」と。

※続く

〜申し訳ありません。今回は夏ばてで頓挫します。次回の後半編で伝説の真相を書きます(と言っても、いつもの通り独断と偏見によるものですが)〜


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