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大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
媚びないジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。

第18回
Nuits De La Fondation Maeght, Vol1
Albert Ayler



マグー近代美術館・前衛音楽祭ライブ Vol.1
アルバート・アイラー
撰者:松井三思呂


Nuits De La Fondation Maeght, Vol1
Albert Ayler

アルバート・アイラーのラストレコーディングの1枚目。現在はVol.1とVol.2を編集した下記のCDで聴ける。





Nuits De La Fondation Maeght 1970(編集CD)
Albert Ayler
【Amazon のディスク情報】

1. In Heart Only
2. Spirits
3. Holy Family
4. Spirits Rejoice
5. Truth is Marching in
6. Universal Message
7. Spiritual Reunion
8. Music is the Healing Force of the Universe

Albert Ayler (ts,ss)
Call Cobbs (p)
Steve Tintweiss (b)
Allen Blairman (ds)
Mary Maria (chant,ss) ※8 only

Recorded in 1970





The Giuseppi Logan Quartet
Don Pullen
【Amazon のディスク情報】

個人的ESP原体験のひとつ、ドン・プーレンのレコーディングデビュー作。「これを前衛と言わずして、何を前衛と言うか」という内容である。





Bells
Albert Ayler

ESPはジャケットカバーのデザインなどには秀逸なものやユニークなものが多い。写真はアイラーの名盤「Bells」(ESP1010)のレコード盤。黄色のカラーレコード、A面のみの録音カッティング、B面はツルツルという代物である。



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ちょうど2年ほど前、書店を覘くと「東京大学のアルバート・アイラー」というタイトルの文庫本が目にとまった。「アルバート・アイラー」だけでも限りなく敏感に反応してしまううえに、「東京大学」とくれば……中身もあまりチェックせずに即ゲットした。

本の中身はと言うと、菊地成孔氏と大谷能生氏による東大教養学部のジャズ史講義をまとめたもので、非常にアカデミックなものである。この講義は2004年の4月に開講し、2005年の1月まで前期・後期にわたって続けられた。菊地氏は300人を超える受講者(東大生より「モグリ」の方が多かったらしいが(笑))にアイラーの「ゴースト」を聴かせ、「発狂の喜びに満ちています」という名コメントを残している。

脈略のない前説で恐縮だが、今回と次回の2回に分けて、そのアルバート・アイラーのラストレコーディングである「Nuits De La Fondation Maeght, Vol1」(SHANDAR10000)、「同 Vol2」(SHANDAR10004)を紹介したい。本アルバムは1970年7月27日、フランスのニース近郊、マグー近代美術館の前衛音楽祭でライブ録音されたもの。この4ヶ月後の11月25日、アイラーは34歳の若さでニューヨークのイースト・リヴァーに溺死体となって発見される。なお、この2枚のアルバムは「Nuits De La Fondation Maeght 1970」というタイトルの編集CDで、現在入手可能である。

アイラーは言うまでもなく、まさに60年代を疾走したフリージャズ界の巨星であるが、プロのジャズミュージシャンとしての活動は26歳(1962年)からのたった9年間であった。その活動期間は大きく分けてアメリカ陸軍の軍楽隊を退役して、ヨーロッパを中心に活動を始めた時期を第1期、64年から始まるESPレーベル時代を第2期、そしてインパルスへの移籍を経て本アルバムに至るまでを第3期。とすれば、一般的にはソニー・マレーのタイコとの相性も良い「Spiritual Unity」、「Bells」、「Spirits Rejoice」など、名盤連発のESP時代の第2期が非常に著名であろう。その後のインパルス期はコルトレーンの死やレーベル側の「ESP期とは別のアイラーを……」という想いもあって、日本のジャズクリティックにおいては賛否両論であった。ワタシ的には良い面で垢ぬけて、ポップになっているとこなんか好みですが……。

実は今回コラムを執筆するにあたって、アイラーを取り上げることは決めていたものの、アルバムは何にするか思案していた。そこで、ソネット盤の「The First Recordings」からこのラストレコーディングまで、所有する音源をもう一度聴き直した。結論として「アイラー先生は結局最初から最後まで本質は変わっていないけど、あえて最高傑作はSHANDAR?」。 ただ、第1期の終わり「Swing Low, Sweet Spiritual」(OSMOSIS4001)とどちらにするか最後まで迷ったが、このアルバムはいわばゴスペル・アルバムであって、アイラーの持つゴスペル感覚についてはこの放浪派コラムのドン、大橋さんがいつか書いてくれると思うので、そちらにお願いすることにした(大橋さんお願い!)。

さて、「Nuits De La Fondation Maeght, Vol1」である(アナログもCDも曲の並びは同じ構成)。1枚目のA-1"In Heart Only"はこれまで録音されていない5分弱の小品であるが、この曲からアイラーは全開で吹きまくり、コルトレーンに「自分もあのように吹きたい」と言わせしめた片鱗を見せつける。

A-2" Spirits"はおなじみの曲で、前述の「Swing Low, Sweet Spiritual」と同日に録音されている「Spirits」(DEBUT146)を初めとして数多くのレコーディングが残されている。ここでのアイラーはそれまでの録音以上に超急速テンポで、いわゆる高音域のフラジオ連発と中低音域の分厚いブロウが交互にやってくる快感。最近、「春一番」で坂田明とジム・オルークを中心とするフリーフォームなジャズに接して、一緒に聴いていた大橋さんと分析した結果、到達した結論が「フリージャズは何と言っても、演ってるやつが一番楽しい!」であった。この分析結果に基づけば、当然この時のアイラーも「ご機嫌さん」であったことは間違いない。ついでの話、坂田明は「ゴースト」を洋輔トリオ時代から数多く演奏してきているし、彼があえて曲のなかで「赤とんぼ」や「貝殻節」を唄うことにもアイラーの影がちらつく。

2枚のアルバムの4つのサイドで、最もお気に入りが1枚目のB面である。B-1" Holy Family"は完全なダンスミュージックである。ファラオ・サンダースの"You've Got To Have Freedom"がジャズファンだけではなく、クラブDJの間で話題となり、クラブに出没するオニイチャンやオネイチャンの体を揺らすなら、この曲も「使える」はず。途中で「ゴースト」のフレーズが出てきたり、アイラーは実に楽しそうにダンスミュージックを奏でる。観客もノリノリの様子で、素晴らしいとしか言いようのない演奏。

4曲目のB-2" Spirits Rejoice"では、アイラーは一転した表情を見せる。この曲名をアルバムタイトルに冠したESP盤における演奏などと比較して、圧倒的に優しく、「魂の喜び」をゆったりと唄いあげる。迷いがなく、肩の力が抜けていることは、2枚のアルバムを通しての一貫した空気感であり、中上健次の名著「破壊せよと、アイラーは言った」とは違うアイラーが、ここでは躍動している。

Vol2の内容は次回に譲ることとして、アイラーとは縁の深いESPレーベルについてふれたい。ESP-DISKは1966年、ニューヨークでBernard Stollmanという弁護士によって設立されたレーベルで、レーベル立ち上げの目的はエスペラント語のレコードをリリースするというものであった。しかし、2枚目のリリースがアイラーの「Spiritual Unity」で、これが大変話題となったことから、これ以降フリージャズだけにとどまらず、ガレージ系やサイケ系ロック、完全即興演奏など、1年半の間に45枚ものアルバムをカタログに残すことになる。ガレージ系ロックでは、あのヴェルヴェット・アンダーグラウンドに最初に注目したのもESPだったが、最終的にはVERVEに抜かれてしまったという逸話があり、仮にあのウォーホルの「バナナ」がESP-DISKからリリースされていたら、レーベルはどうなっていたか想像すると面白い。

個人的ESP原体験と言えば、アイラーの諸作はもちろんのこと、大学時代の同級生で当時のジャズの師匠宅で聴いた「The Giuseppi Logan Quartet」(ESP1007)も強烈であった。ドン・プーレンのレコーディングデビュー作としても有名な本作であるが、「これを前衛と言わずして、何を前衛と言うか」という内容である。冒頭の菊地成孔氏と大谷能生氏による東大ジャズ講義でも取り上げられているので、そちらも是非一読されたい。また、リーダーのジュゼッピ・ローガンは大変「ややこしい」オッサンで、彼のことでコラム一編書けそうなくらい波乱万丈の人生であるが、それはまた別の機会としたい。

当時のジャズの師匠からはいろいろな事を教えてもらったが、海外オークションもその一つで、彼と共同で入札を行っていた。今回のアイラーのSHANDAR盤2枚も、彼から「内容が素晴らしいから、ぜひ入札したら」とアドバイスを受け、オークションでゲットしたもので、この時に入手できていなければ、本コラムを書くこともなかったかもしれないと思うと感慨深い。

他にも、ファラオ・サンダース、マリオン・ブラウン、サン・ラ、ガトー・バルビエリといった後のスピリチュアルなジャズを牽引していく人材に、初リーダー作の機会を与えるなど、ESPが60年代後半のアヴァンギャルドなジャズシーンに果たした役割は大きいものがある。しかし、経営陣のトホホ加減……、アーティストとの契約において、アーティストを拘束するものはほとんどなく、版権すら管理していなかったため、無数のブートレグとアーティストの引き抜きが横行……のため、レーベルは急速に失速していく。

そんなESPであるが、ジャケットカバーのデザインなどには秀逸なものやユニークなものが多い。写真はアイラーの名盤「Bells」(ESP1010)のレコード盤で、黄色のカラーレコードに加えて、A面のみの録音カッティング、B面はツルツルという代物である。間違ってB面に針を下した時、針をおしゃかにしないように、音は鳴らなくともせめて溝は切って……、というのは凡人の考え方なのだろうか。また、このレコードはオリジナル盤ではなく、アイラーがインパルスに移籍してからのリイッシュー盤であるが、ジャケット裏面のライナーにはアイラーの他のESP盤に加えて、"various albums on IMPULSE"とあり、このレーベルのおおらかな空気感が表れている。

このあたりで「万象堂のアルバート・アイラー」前期講義は終了して、次回を後期講義としたい。



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