BANSHODO_Logo
gray line

Kind of Jazz Night

さんふらわあ JAZZ NIGHT 初代プロデューサー
大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
うろたえず、媚びない。
そんなジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。


撰者
大橋 郁
松井三思呂
吉田輝之
平田憲彦

gray line
第15回

マネー・ジャングル(前編)
デューク・エリントン
撰者:吉田輝之


【Amazon のCD情報】

こんにちは吉田輝之です。今年はお花見を自粛された人も多かったと思います。私は自粛でなく、単に行けなかっただけなのですが、3月から4月の週末に三宮の古くて小さなバーで、一枝飾っている桜を見て花見としました。開花にあわせて選ばれた桜の名前は、啓翁(けいおう)、御衣黄(ごいこう)、普賢像(ふけんぞう)紅玉錦(べにたまにしき)とマスターから教わりました。
かなり酔いながら桜をみて、日経の俳壇に載った岩手県大船渡市の桃心地さんという方が詠まれた「さくらさくら さくらさくら 万の死者」という句を反芻していたら「LE FLEURS AFRICANS(アフリカの花)」という曲を想い出しました。
今週の一枚は、その曲が収録された「MONEY JUNGLE/DUKE ELLINGTON」です。



このレコードを最初に聴いたのは、20年前、確か東京の門前仲町にあったジャズ喫茶タカノだったと思うが、もしかしたら当時住んでいた蒲田の直立猿人だったかもしれない。
針を落し、ベースが唸りを挙げるとスピーカーのコーン紙が異様なほど大きく振動しているのが見えた。次にドラムが入り、そしてあのピアノの「ドギャン」が来るのである。ガ行とダ行とバ行が混じり濁った暴力的な音。ベースとドラムは殆ど伴奏としてリズムをキープする意識はない。そこに斧を振り回して突進してくるようなピアノが聞えてくる。「何だ、これは」と思いモノクロのジャケットを覗き込むとエリントンがピアノに座っている。その横で覗き込んでいるのはマックスローチか。後ろの立っている男は暗くてよくわからん。
次に静かな曲がかかり、ジャケットににじり寄って見ると題名は「MONEY JUNGLE」とあり、もう一人の男はミンガスだった。

レコードの片面は4曲ですぐに終わった。こちらが気になっていることに気付いたマスターが無言でB面もかけてくれる。そして二曲目で、今度はいきなりピアノの「バギャン」が来るのである。しばらくは、その曲がキャラバンであることがわからなかった。3曲目は打って変わって静かな美しい曲だ。知っているが曲名が思い出せない。
全曲聴き終えて「何かとんでもないモノを聴いてしまった」と思った。エリントンのピアノとして想起されるのは、幽玄の美ともいえるコルトレーンとの共演における演奏か、「A列車で行こう」に聞かれる簡潔でリズミカルな演奏だ。その演奏とはまるで違う「恐怖の大王エリントン」がそこにいた。

当時、金に困ってジャズのレコードは全て売ってしまい、ジャズはジャズ喫茶で聴くものと決めていたが、このCDは出てすぐに買った。「コンプリート・マネー・ジャングル」と題されたCDでは13曲収められている。小川隆夫さんのライナーを読むと、元々は1962年に映画で有名はユナイテッド・アーチスツ(UA)から出されたが、UAが音楽部門をキャピトルに売り、同じくキャピトル傘下にあったブルーノート・レーベルから元の7曲に未発表曲4曲と別テイク2曲を加え録音順に並び替えて再発されたものだ。全てエリントンのオリジナルで、うち7曲が新曲である。
最初に僕がジャズ喫茶で聞いたのはUA盤の方だ。そしてA面の2曲目にかかったのが「アフリカの花」。B面のキャラバンの後にかかったのが「ソリチュード」だった。

ブルーノート盤の収録は以下の通り。

1. ベリー・スペシャル(Very Special) [新曲]
2. リトル・マックス(A Little Max)未発表曲[新曲]
3. リトル・マックス(A Little Max:alternate take) 未発表曲別テイク
4. アフリカの花(Le Fleurette Africaines(African Flower) )[新曲]
5. レム・ブルース(REM Blues) 未発表曲[新曲]
6. ウイグ・ワイズ(Wig Wise)[新曲]
7. スイッチ・ブレイド(Switch Blade)未発表曲[新曲]
8. キャラバン(Caravan)
9. マネー・ジャングル(Money Jungle)[新曲]
10. ソリチュード(Solitude:alternate take)別テイク
11. ソリチュード(Solitude)
12. ウオーム・ヴァレー(Warm Valley)
13. バックワード・カントリーボーイ・ブルース(Backward Country Boy Blues)未発表曲[新曲]

対して元々のUA盤は以下の通り。

1. マネー・ジャングル(Money Jungle)レコードでは以下A面
2. アフリカの花(Le Fleurette Africaines(African Flower) )
3. ベリー・スペシャル(Very Special)
4. ウオーム・ヴァレー(Warm Valley)
5. ウイグ・ワイズ(Wig Wise)※レコードでは以下B面
6. キャラバン(Caravan)
7. ソリチュード(Solitude)

1962年9月17日、何故エリントンはローチとミンガスと組んでこのような演奏をしたのか。今回、このコラムを書くにあたって、エリントンおよびこのレコードについて、いろいろ調べたが英語能力のなさもあって、正直わからないことが多い。以下想像及び独断を交えての解釈である。

まずよくわからない曲から。
最初に演奏した「ベリー・スペシャル」は、「この演奏、このレコードは特別なものですよ」ということだろう。
2曲目の「リトル・マックス」は小川さんのライナーでは「当然、マック・スローチ」を指すとあるが、「可愛いいマックス」と訳し「マック・スローチのどこが可愛いいねん」と突っ込む前に、原題を見ると「リトル」は「a little」となっており、違う意味じゃないかなあ〜。2曲目で「少しだけ最大限」に演奏しましたということか?
5曲目の「レム・ブルース」のREMって何だ。まさかレム睡眠のことではあるまい。ローチ(ROACH)、エリントン(ELLINGTON)、ミンガス(MINGUS)の最初のアルファベットからREMのブルースとしたのか。
6曲目の「ウイグ・ワイズ」も何だろう。WIGって女性の付けかつらのことだろう。ネットのエキサイト翻訳に入力してみると「賢明な状態でかつらを付けてください」と翻訳されるが、いくら当時63歳のエリントンの髪の毛が薄くなっているとは言ってもそれはないよな。WIGは動詞として「激しく叱責する」、「(麻薬等で)ハイになる」という意味があるようだが。わからん……

さてこれからが本題である。(いつものことながら本題に入るまで長くて申し訳ない)
問題は「アフリカの花」だ。3分余りの小品で最初は聞き流していたが、そのうちその静謐で美しい曲そして演奏に魅惑されるようになった。実はエリントンはたいへんな園芸家でアフリカの珍しく美しい花を手に入れてこの曲を作った、ということではないと思う。キーはこの曲がわざわざフランス語(Le Fleurette Africaines)で表記してあることだ。

1960年、アフリカで17もの国が独立する。いわゆる「アフリカの年」である。うち12の国の旧宗主国はフランスだ。
そしてこのレコードが吹き込まれる2か月前の1962年7月にアルジェリアが独立しているのだ。1830年フランスが地中海を隔てた北アフリカのアルジェリアに侵攻し支配した。第二次世界大戦時フランスがドイツに支配されドゴールがアルジェリアに臨時政府を置き、ドイツが負け第二次世界大戦終結後、独立戦争が激化した。そして、1954年に先住民(アンディジェーヌ)とフランスからの入植者(コロン)との対立からアルジェリア戦争が勃発する。この戦争は先住民とコロンとの民族紛争であるだけではなく、親仏派と反仏派の先住民同士の紛争、そしてフランス軍部とパリ中央政府との内戦と複雑を極め、遂にはドゴール暗殺事件(未遂)そしてフランス本土へのパラシュート部隊による空襲の可能まで起きる。キューバ危機とならぶ1962年世界最大の事件である。
アルジェリアの独立まで100万人以上の死者が出た。その大半は非戦闘員だった。エリントンがアフリカの独立の代償に死んでいった膨大な数の犠牲者に捧げたのが、この「アフリカの花」であり、アフリカの人々に伝えるためにフランス語表記したといのが僕の推測だ。



今回の「MONEY JUNGLE」、長くなりますので、以下次回に続きます。


gray line Copyright 2010- Banshodo, Written by Iku Ohashi, Sanshiro Matsui, Teruyuki Yoshida, Noriiko Hirata, All Rights Reserved.