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Kind of Jazz Night

さんふらわあ JAZZ NIGHT 初代プロデューサー
大橋 郁がお届けする『KIND OF JAZZ』。
うろたえず、媚びない。
そんなジャズにこだわる放浪派へ。
主流に背を向けたジャズセレクションをどうぞ。


撰者
大橋 郁
松井三思呂
吉田輝之
平田憲彦

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第1回

ブギ・ウギ・トリオ
ピート・ジョンソン、アルバート・アモンズ、ミード・ルイス
撰者:大橋 郁


【Amazon のCD情報】

このコラムの企画のお話をいただき、どういったコラムにすべきか、ずいぶんと悩んだ。
JAZZの推薦DISCに関する本やウェブサイトは世の中にごまんとあるし、今さらMiles Davisの「Kind of Blue」や、John Coltraneの「A Love Supreme」を私が紹介しなくてもよかろう。 価値の定まったいわゆる歴史的名盤を順番に紹介していくつもりもない。とはいっても、世の中で全く入手困難となってしまったDISCを紹介しても、自己満足になってしまうので、 やはり、このコラムを通じて興味を持ってくれた方が、比較的容易に入手出来るとっておきについて書きたいと思う。
これから4人のコラムニストが、それぞれの自分の音楽の楽しみ方の中で、これまでにどんな音楽を聞いてきたかを、紹介していきたい。

第1回目は、Storyvilleレーベルの「Boogie Woogie Trio」。
私は高校1年の頃、このLPを初めて聞いたときの、全身に電気が走ったような驚愕と興奮が今でも忘れられない。1939年の録音という大昔の録音なのに、まったく古さを感じなかった。(録音状態は古臭かったけど。)

当時、キャロルやダウンタウンブギウギバンドといった日本のロックを聞いていた高校生の耳には、まるでロックバンドに聞こえた。つまり、ロックンロールバンドをソロピアノでやっている感覚。ピアノとは全く別の楽器ではないか、とすら思えた。「ピアノってこんな使い方があるんや。」と、知った瞬間だった。それくらい、攻撃的で暴力的な音だった。

ブギウギピアノというものについては、よく知られているのは、アメリカ音楽のルーツのひとつであるブルースのビートを強調してダンス音楽にしたもの、ということだ。ピアニストの左手は延々と続くリズムを刻むために、強靭でなければならない。一般的にはミシシッピ州などの南部の農場で生まれたブルースが、1930年代の工業化の波で人口と共に北上し、シカゴあたりのブルースピアニストが、徹底した8拍のブギをブルース演奏に用いたことから定着していったらしい。

また、シカゴという都会の生活に流れ込んで人口膨張や生活苦にあえいだ黒人達が相互扶助として、家賃を捻出するためにHouse Rent Party(家賃パーティ)を開いて、ブギウギピアノで踊って会費を稼いでいたという。都市の黒人の生活と密着したところから生まれ、黒人達に支持された、コミュニティの音楽だった訳だ。つまり、市井の大衆の中で親しまれたという意味では、ブラジルのサンバとも似た性格だったのかも知れない。アメリカの黒人音楽が現在のようにマスコミやレコード産業とは別の流れの中でも発展した、最後の時代に近いのだろう。

アルバムの中身は、Pete Johnson, Albert Ammons, Meade Lux Lewisという3人のブギウギピアノの名手のそれぞれのピアノソロと、二人ずつのデュオ、そして三人全員による3台のピアノ演奏などで構成されている。
このアルバムの中には「Hersal Blues」という曲がある。Hersal Thomasというピアニストの書いた曲をカバーしたものだ。この人は1926年には15歳で毒殺されたが、天才的ピアニストだったらしい。それも今は、アメリカ音楽界ですらほとんど忘れ去られている名前である。(Hersal Thomasは妹にSippie Wallaceというブルース歌手がおり、こちらは、1898年に生まれて1986年に亡くなるまで長寿を全うして、ボニー・レイットなどのメジャーなアーティストとも共演しているため、その文脈で時折名前を見かけるが。)

ブギウギは市井の中に生まれた大衆音楽だから、当時のシカゴではこの3人以外にも無数のピアニストがいて、生まれては消えていったに違いない。Hersal Thomasもその一人である。

1938年に音楽プロデューサーのジョン・ハモンドがカーネギーホールで「スピリチュアルからスイングへ」という一大コンサートを企画して、様々なアメリカ音楽の演者が出演した。この3人も出演し、そんなこともあってブギウギはいわばメジャーな音楽になっていくが、やはり、Hersal Thomasら無数の無名のピアニスト達によって創り上げられていった時代こそ、最も活き活きとしていたことだろう。
その伝統は今もロックやJAZZの中に生きているのである。決して70年前の遺跡や博物館の音楽としてではなく、今に生きる伝統として聞いてもらいたい音楽だ。


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