書海放浪記
書物迷宮
平田憲彦
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ジョン・レノン PLAYBOY インタビュー
ジョン・レノン 、ヨーコ・オノ
PLAYBOY日本版編集部訳
集英社(1981年)
毎年12月8日になれば、どこかしらのメディアがジョンを特集する。日本において12月8日とは、太宰の短編のタイトルにもあるが、どう考えても太平洋戦争勃発の日、つまり日本がハワイの真珠湾を攻撃した日であるのだが、実はジョンが撃たれた日としての方がポピュラーだという人々がいる。
何を隠そう私もそうだが、しかし12月8日にジョンを思い出すのならば、もっとジョンを思い出すのに最適な日がある。10月9日だ。なぜなら、10月9日はジョンが生まれた日であるからに他ならない。
そもそも死んだ日でその人を思い出すのは、それはそれで意味はあるがどうしても感傷的になる。そんなのでいいのかと思わざるをえない。クリスマスだって、キリストが生まれた日を祝う日で、もちろんキリストはもういない。生きている人の場合誕生日を祝い、死んだら命日をしのぶというのは、やはりどう考えても寂しい。その人が生まれたことで我々に幸せな思い出が出来たのであれば、生まれた日をこそ祝おうではないか。
ジョンが生まれていなければ、ストロベリー・フィールズ・フォーエバーは聴けなかったし、ツイスト・アンド・シャウトもスターティング・オーヴァーも決して聴けなかったのであるから、どうしたって生まれた日を祝いたい。その日にこそ、ジョン・レノンをめいっぱい聴き倒すのである。いや、もちろん毎日聴いたってかまわないのであるが。
いうまでもないことだが、『ジョン・レノン PLAYBOY インタビュー』だけがジョンを堪能できる書物ではない。しかしここにはジョンの思想が語られているといっても良いほど充実したインタビューが収録されており、そのほかにジョン自身による楽曲レビューがあって、それがこの書物の価値を高めている。価値、というと身も蓋もないが、早い話、ここまで集中して自分の、またビートルズの楽曲のレビューをした書物は後にも先にもこれが唯一である。
ジョンをジョンたらしめているそのクリエイティビティは音楽の他に美術があり、音楽はレコードでそのすばらしさを体験できるし、美術は作品集で心ゆくまで味わうことが出来るが、この自作曲を中心とした楽曲レビューはそのどちらでもない隙間を埋めるがごときの意表を突くインパクトがあるのである。
なかでも、ポールの旋律の美しさを褒め称えたり嫉妬したりするあたりには、本当に素直なミュージシャンとしてのジョン・レノンを実感することが出来て、実に感動的である。
短い文章ばかりの簡潔なレビューだが、だからこそすばらしい。この企画をした編集者に対して、いくら賞賛してもしすぎるということはないだろう。
そして、どうしても書いておかねばならないことがある。それは、このインタビューはジョンが亡くなるほんの少し前に行われたということである。また、ジョン自身による楽曲レビューは、亡くなるほんの1週間前におこなわれた。プレイボーイ誌の名物記事、『PLAYBOY
INTERVIEW』である。当然雑誌にも掲載されたが、書籍化への読者からの強い要望によって、こうやって私たちが今も読むことが出来る。
インタビューはもちろんヨーコ夫人も同席しており、ジョンの極めて率直ななコメントが随所にちりばめられ、まるでバイブルのようだ。
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『もし、宗派の区別なく平和な世界を心に描けるなら、つまり宗教なしにということじゃなく、私の神はおまえの神より偉大だといったことをぬきにして想像できるなら、そいつは本物だ』
『ぼくには君の目を醒ますことは出来ない。君になら、君の目を醒ますことは出来るんだ。ぼくには君の傷を治せない。君になら君の傷を治せるんだ。』
『誰かに何かをさせられているから、自分の意志が通せないと考えているかぎり、世の中を動かせっこないさ。』
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装丁は横尾忠則。名前だけじゃない。実際この装丁はすばらしいデザインである。たったひとつの写真のみでここまで感動的な装丁を施した横尾忠則は、間違いなく天才だ。タイポグラフィもすばらしい。
この書物は、出版され生を受けたことそのものを素直に感謝したい気持ちにさせる奇跡的な書物である。アメリカと日本の編集担当者に最大級の賛辞を送りたい。
※敬称略※
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