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すばらしきブルース&ゴスペルの世界
〜おすすめアルバムガイド〜
平田憲彦
ブルースハープを聴こう
Down and Out Blues
Sonny Boy Williamson
【AmazonのCD情報】
墜ちて踏み外すこと。
暴力的なまでに汚れきったその身なりは、しかし魂の汚れだけはかたくなに拒み、むしろ饒舌な乾きを画面にみなぎらせて頑固なまでの豊かなつぶやきをあたりにただよわせる。
サニーボーイを代表する1枚はアルバムタイトルとジャケットデザインからしてすでに、ブルース永遠の傑作となるべく運命づけられた1枚です。
ハーモニカプレイヤーのみならず、ブルースシンガーとしても驚くべきミュージシャンとしか言うほかないサニーボーイ、その魅力はまず声以上に声となるそのハーモニカサウンドにあります。
ブルースハープと呼ばれる10穴の小さなハーモニカから紡ぎ出されるサウンドは、豊饒にして寡黙、饒舌が火を噴くかと思えば、嗚咽以上の打ち震えたつぶやきを奏で、声と息とがふるわす空気が緊張と緩和を繰り返すさまを、今まさに生きているブルースとして体験できる。それがサニーボーイのブルースにほかなりません。
さらに驚異的なその声は、ハーモニカサウンドと入れ替わるかと思えばまた姿を消し、不意に現れるとまさに心をかき乱さずにはおかないつぶやきとなる、驚くべき魅力をたたえています。
ザラツキ、乾いていると同時にしめった空気はそのままサニーボーイのブルースとなるのです。
アンプリファイドされ、エレクトリックの饒舌を手に入れたシカゴブルースサウンドの要ともなるブルースハープは、リトル・ウォルターをはじめとするエレクトリック・ハーモニカサウンドですが、サニーボーイのハープサウンドはいわゆる“生ハープ”ともいわれるアコースティック・ハーモニカサウンドです。同じシカゴブルースでもサニーボーイのハープが南部ミシシッピの香りをふんだんにたたえているのは、そんなことも関係しています。
ロバート・ジュニア・ロックウッドをはじめとした南部仕込みシカゴブルースの強者たちが鉄壁のサウンドで送り出すリズムにのったサニーボーイの、変幻自在なハープサウンドと聴覚を心地よく刺激してやまないその歌声は、私達を途方もないブルース体験へと向かわせます。
墜ちて踏み外す己の心を容赦なく唄にしたサニーボーイは、そのすばらしいハープサウンドと歌声で今も私達をとらえて離そうとしません。
CDショップでサニーボーイのアルバムをお求めになるときは、必ず『サニー・ボーイ・ウィリアムスンII世』として探して下さい。
『I世』がいますので。ちなみに、『I世』も良いのですがそれはまた別の機会に。
※
Down and Out Blues
Sonny Boy Williamson
1. Don't Start Me to Talkin'
2. I Don't Know
3. All My Love in Vain
4. The Key (To Your Door)
5. Keep It to Yourself
6. Dissatisfied
7. Fattening Frogs for Snakes
8. Wake up Baby
9. Your Funeral and My Trial
10. 99
11. Cross My Broken Heart
12. Let Me Explain
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