音楽書庫
すばらしきブルース&ゴスペルの世界
〜おすすめアルバムガイド〜
平田憲彦
シカゴブルース、基本の1枚
The Best of MUDDY WATERS
Muddy Waters
【AmazonのCD情報】
まずはアルバムジャケットをご覧頂きたい。
その顔を大写しにする手法が名作を生みおとすことは、ビリー・ホリデイの『奇妙な果実』、ジョン・レノンの『イマジン』、マービン・ゲイの『What's
Goin' On』などから最近では宇多田ヒカルの『First Love』までの数え切れない傑作たちから、それは実証済み。
しかしこのマディ・ウォーターズの最高傑作はちょっと違う。
なぜか。
マディはこっちを見ていない!のであります。
『顔大写し名作アルバム』の歴史の中で、これはかなり異質な出来事だといわねばなりません。
しかし、それには十分すぎるくらいの理由があるのです。
このマディは歌っているのです。しっかりと目を開けて。正面からとらえた顔大写しショットで歌わせると、口も目も開いているのは怖いし、確かに口がだらしなく開いてとてもみっともない。じゃあ斜めアングルはどうかというと、これまたしまりがない。
マディの重量感があって、しかも切れ味鋭いブルースを端的にビジュアル化するための、最善かつ最良のデザインが、まさに、このデザインなのです。
画面上方にまっすぐにのびるタイトルはずっしりとしたサンセリフ体で白抜きにされ、その右端から斜め45度に下降するマディの横顔アウトライン。画面に揺るぎない緊張感をもたらす鉄壁の構図。さらに、ブルース・パフォーマンスで吹き出したマディの汗で怪しく黒光りしている、という念の入れよう。
それは、どこまでも深く、重たい輝きとなって下降していくマディのボトルネックギター・サウンドであり、艶やかな余韻をたたえながら、孤独なつぶやきが響き渡る歌声でもあります。
遠くを見つめるマディのまなざしと、おそらく歌っているのはスローブルースでしょう、語りかけるように歌うその少なく開いた口元。その2つの白はシンコペートするリズムであり、さらに重厚なマディの存在感に真っ向から対立する素振りを見せながらも、静かにまた沸騰するかのような調和を見せるリトル・ウォルターのブルースハープに他なりません。
このアルバムが史上まれにみる傑作なのは、納められた多くの作品がエリック・クラプトンをはじめとするロック・ミュージシャンにカバーされまくったからではなく、収録曲の中にローリング・ストーンズのバンド名の元ネタがあるからでもなく、後にブルース・スタンダードとなる曲ばかりが納められているからでもありません。そうではなく、ここにはブルースがともすれば紋切り型に陥りがちなリズムパターンとコード進行から自由であるばかりか、アコースティック・ブルースのカラカラなザラツキ感がエレクトリックサウンドの中で見事に脈打っており、さらに、ブルースの起源“デルタ・ブルース”の魂はそのままに、強化されたリズムで柔軟にかつ幅広く感情を表現する手段と、アンプリファイドされたエレクトリック・サウンドがもたらすアメリカ南部の暑さをも手に入れたブルースが、絶対的な自信とともに歩む姿があるからに他なりません。
それにしても、このジャケット。
このジャケットを一目見ただけで、ああこれは名作だと即座に判断したあなた。あなたは圧倒的に正しい。今すぐCD屋さんに走っていただきたい。きっと人生を変えることになるから。
ひたすらに途方もない傑作。
ただ、必聴。
※
The Best of MUDDY WATERS
Muddy Waters
1. I Just Want to Make Love to You
2. Long Distance Call
3. Louisiana Blues
4. Honey Bee
5. Rollin' Stone
6. I'm Ready
7. (I'm Your) Hoochie Coochie Man
8. She Moves Me
9. I Want You to Love Me
10. Standing Around Crying
11. Still a Fool
12. I Can't Be Satisfied
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