音楽書庫
すばらしきブルース&ゴスペルの世界
〜おすすめアルバムガイド〜
平田憲彦
必聴のライブアルバム
BLUES LIVE !
Robert Jr. Lockwood & The Aces
【AmazonのCD情報】
たとえば、ア・ハード・デイズ・ナイトでのビートルズのサウンドと、ヤー・ブルースのビートルズのサウンドとは、言うまでもなく同じではありません。ロックの奇跡のひとつと言われているローリング・ストーンズのサウンドにしても、サティスファクションの時のサウンドとスタート・ミー・アップの時のサウンドとは同じではなく、全く同じ事がボブ・ディランにも言えましょう。言い忘れましたが、つまり、最初にリリースされたレコードでの話です。特にボブ・ディランは顕著です。
同じ人間が時を隔てて録音したサウンドは、おのずとその質そのものが異なり、それがまた感動的なサウンド体験ともなるのですが、同様に感じる違和感を否定するというわけにもいきません。しかし、この点にこそライブアルバムの真価があるというのは、実は見過ごされていることなのです。
ライブアルバムというのは、単にそこで確かに演奏されたのだ、という記録ではなく、また観客を前にした演奏だからこそ臨場感がある、というわけでもありません。そうではなく、オリジナルリリースのレコードでは時を隔てていたサウンドが、ひとつの時間と空間の中で今まさに生きている音楽として立ちのぼり、驚くべき音楽体験を私たちにもたらせてくれる、それがライブアルバムなのです。ビートルズの『Live at the Hollywood Bowl』やストーンズの『Still Alive』が感動的なのは、したがって、それが演奏記録だからではなく、そもそも時間と空間を隔てて生まれたサウンドが今まさに出会い、生きている様を生々しく露呈しているからに他ならないのです。
ブルースのライブアルバムの中で、このロバート・ジュニア・ロックウッドの『BLUES LIVE!』がとりわけ感動的なのは、まさにその時間と空間を越えた生々しさが露呈している感動的なブルース体験を堪能できるからにほかなりません。
ミュージシャンにとっての演奏ツアーとは、往々にして最新アルバムのプロモーションを兼ねていたり、過去の作品を総なめして披露したりするする事が多く、時間と空間を越えたサウンドの奇跡的出会いが、実は自己完結してしまっている場合があります。それはそれとしていいのですが、『BLUES LIVE!』にはその自己完結がありません。
時間と空間を越えたサウンドの奇跡的出会いはロバート・ジュニア・ロックウッド自身のブルースにとどまらず、ブルースそのものをも包み込む広大な空間となって私たちを圧倒し、唖然とするほどのディープでスウィンギーなブルースを辺り構わずまき散らしています。
ここには、ロックウッドのブルースと言うよりは、デルタブルース、シカゴブルース、モダンブルース、ジャンプブルース、さらにインストルメンタルから、弾き語り、ボトルネック・スライドギターやブルースハープまでが大きく脈打ち、それが同じ時間、同じ空間で、ロバート・ジュニア・ロックウッドを中心としたひとつのバンドサウンドによって生まれつつあるブルース体験であり、ロックウッドを通してブルースがその姿を現している、もう、これはとんでもないレコードなのです。
さらに特筆すべきは、ここにはブルースギターの全てがあると言っても過言ではないバラエティかつ奔放で深遠な演奏が込められているということです。それは言うまでもなく、ロックウッドとAcesのルイス・マイヤーズ、その2本のギターによる素晴らしい演奏です。この2本のギターによって生み出されているブルースは、ディープでダウンホームな香りとモダンで洗練されたラインが同時に溶け合い、奇跡的な美しさに満ちています。ロックウッドが俗に“ブルースの生き神様”と呼ばれるのも、決して大げさではないのです。
大きくうねる『Sweet Home Chicago』にスウィングするのもよし、『Stormy Monday』の流れるような、しかし甘さには流されないシャープかつメロウなギターに聴き惚れるもよし、さすが直接教わっただけのことはある『Mean Black Spider』のロバート・ジョンソンそのまんまのディープな弾き語りに涙するもよし、全体を貫くAcesのシカゴビートに酔うもよし、もうこれは踊るしかないだろう『Honky Tonk』で驚喜するもよし、いかなるブルースをも同時体験できる驚くべきレコードとして聴かずにはおれない1枚というわけです。
私たちをこれほどまでに幸せにしてくれるアルバムも、そうはありません。
ブルースのライブアルバムは多くありますが、デルタからシカゴまでを、まるで歴史をたどっているかのように縦断北上するディープ・ブルースや、さらにまたジャンプからモダンへと続くスウィンギーなブルースまでも変幻自在に響きわたらせることが出来たこれほどのアルバムは他に例がなく、ブルースの奇跡と呼んでしまいたい誘惑に駆られる、まさしく驚異的なライブアルバム。
ライブアルバムの王道を体現した感動的傑作と呼ぶほかない、メシを抜いてでも手に入れるべき必聴・必携の名盤です。
※
BLUES LIVE !
Robert Jr. Lockwood & The Aces
1. Sweet Home Chicago
2. Going Down Slow
3. Worried Life Blues
4. Anna Lee
5. One Room Country Shack
6. Stormy Monday
7. Feel All Right Again
8. Honky Tonk (Instrumental)
9. Mean Black Spider
10. Little And Low
11. You Upset Me Baby
12. Sweet Little Angel
13. Just Like A Woman
14. Juke
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