美術書庫
アート・コラム
平田憲彦
雨でも美しかった直島
直島にベネッセ社が開発した大きなリゾート区域があることは以前から知っていたが、先日縁があって初めて訪れた。
淡路島北端にウェスティンホテル淡路というリゾートホテルがあり、そこが企画した『淡路夢ツアーズ』のお世話になって、淡路島から直島まで高速船で移動した、日帰りの小旅行だ。
淡路島から船で2時間。直島は穏やかで美しい小島だった。ベネッセ社が島の4分の1を買い取って、ホテルや美術館を建設し、それらの建築物の大半が安藤忠雄さんの手になる。
納められている美術作品は現代美術に特化している。パンフレットによれば、現代アートと安藤さんのコラボレーションということだ。
実際、美術館に足を踏み入れるとそれは実感できる。安藤建築の胎内にいるかのような錯覚、そしてその中で新たな命を授けられたかのように佇む美術作品達。
現代美術が好きな人にはお薦めしたいところだが、そうしにくいというのも本音だ。それは、安藤建築が現代美術作品を見せるための作為的な空間に感じてしまうからだ。しかし、考えようによっては、美術作品が美術館にあるということ自体が作為的であるので、むしろ徹底して作り込まれた建築物というプロデュース作品に、現代美術がどう主張しているかという風に見れば楽しめると思う。
そう、これはコラボレーションという生やさしいものではなく、対決であるともいえる。
お互いがお互いの存在を賭けて同じ場所で生きている状況。それがとりわけ顕著なのが、李禹煥美術館である。
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それにしても、直島は美しかった。その日はあいにく小雨が降り続き、曇天で海も灰色だ。しかしどうだろう、この写真を見て欲しい。こんな天気にもかかわらず、海は透き通っていて、吸い込まれそうだ。季節はずれのビーチには誰もいない。しずかな浜辺に打ち寄せる穏やかな波。
僕は、美術館を出てこの海を見つけ、興奮してしまった。
こんな海を見るのは久しぶりだ。
日本地図で見たら点のような小さな直島だが、この海は大きい。瀬戸内海なのに、太平洋のように大きな海。小さいのは島ではなく、自分なんだとすぐに気がつく。
杉本博司さんが撮った水平線の写真も、この島には多く展示されている。水平線は地球が今の姿になってから、ずっと同じ。何千年、何万年とそこにある。杉本さんは、その『時間』を撮影しようとしたと、ツアーのガイドから聞いた。
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