美術書庫
アート・コラム
平田憲彦
ひびのこづえとボローニャ
伊丹で開催されている『ひびのこづえ展』と、西宮で開催されている『ボローニャ国際絵本原画展』を見てきた。
ひびのこづえさんは、ちょうど日本グラフィック展なるコンペティションが話題になっていた20年ほど前に出てきた作家で、日比野克彦さんが段ボールを使って斬新なPOPアートを発表していたころに登場した。当時は、内藤こづえという作家名だった。
雑誌『とらばーゆ』の表紙を始め、多くの広告作品で起用され、注目されてきたコスチューム・アーティストだ。私も好きな作家の一人。
伊丹という街が、酒蔵が多くあった古い街だったことがまず驚きで、つまりは私が無知なだけだったわけだが、酒蔵を改造した300年の歴史をもつ建物に斬新なひびのこづえさんのコスチュームアートが展示され、素晴らしい美術体験を堪能してきた。
コスチュームアートのおもしろさや、服を通したアートの広がり、そして、展覧会をどう作るかという企画性も含めて、素晴らしい体験だった。
昔から作品は知っていたが本物を見るのは初めてで、特にボーンを使った作品は、ボリューム感と軽さを両立させながら衣服という枠組みをしっかり維持しつつ、新しい衣服の世界に突き抜けようとする強い表現への意志を感じた。
ひびのこづえさんの作品を見ていると、コム・デ・ギャルソンが普通に思えてくるくらい、その発想と衣服への洞察、着ることの体験性を突き詰めるどん欲な表現に感嘆する。
『ボローニャ国際絵本原画展』は、大谷美術館という小さな美術館で開催されている。これは毎年開催の恒例展覧会だが、私は初めてだった。念願かなってついに見た、というもの。
これも素晴らしい展覧会だった。世界中から選りすぐられた絵本原画コンペの展覧会だが、どの作品もよかったし、仕事への参考になった。
絵はもちろん素晴らしいが、上手い絵がそのまま良い絵になるということはない。特に、絵本にすることを前提にしているような場合、絵のどういう部分で物語性を感じさせているかが、とても大切なんだと実感。
明らかに絵本としてすぐに成立すると思うものと、作品としては素晴らしいが、背景に物語性を感じにくいものがあったり、この展覧会は、私のように絵本を『描く』側ではなく『作る』側にいる人にも大いに参考になり、即発される展覧会であった。
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