書海放浪記
書物迷宮
平田憲彦
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雑誌仲畑広告制作所
仲畑広告制作所
誠文堂新光社(1986年)
残念だが、この書物を古書店で見つけることはかなり難しいだろうと思う。
しかし、万が一にも見つけられる可能性もないではないと思うので、ぜひ覚えておいていただきたい。
ブレーン別冊『雑誌仲畑広告制作所』。
これは、コピーライターである仲畑貴志が主宰する広告制作会社、仲畑広告制作所の仕事(作品紹介)を中心としたムック本である。同じコピーライターである糸井重里との座談会をはじめとして、いろいろな企画が山ほど詰め込まれた楽しく愉快な書物だ。
これが刊行されたのが昭和61年(1986年)というのはいわゆるバブルのはじまり頃に相当し、広告業界でも“クリエイティブ”といういい方が一般化し、またCIブームなどというものもあり、広告やデザインが身近になった頃ということもできる。
この書物が出版されたその年、仲畑貴志は39歳である。それまで明快でストレート、またユーモアもある優れた広告を作り続けてきた仲畑が自身の作品を中心として、主宰する会社の作品集を出したというのは、かなり画期的なことだった。
今でも広告制作会社が作品集を出版すると言うことはたまにあるが、これはその先駆けといっていいし、なおいえば、雑誌形態をとっているということからしても、かなり特異な書物であるといえる。
さて、そのように相当に内容が充実したこの書物だが、とりわけ重要極まるのが『仲畑貴志最初で最後の広告作法』と題されたコラム。広告を制作する上に於いて、コピーライティングを主軸に置きながらもクリエイティブとコミュニケーション全般にわたってその方法論と実践方法を縦横無尽に書き尽くしたものだ。
すこし引用しよう。
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コピーを書く場合「いかに言うか」から入ってはいけない。表現の前に、「何を言うか」を、しっかりと把握する必要がある。
広告が発信していることと言えば、すでに受け手に内在していること。
「最高の味」と書かずして「最高の味」と書くことがコピーライターの仕事なのだ。
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決して長文とは言えないが、だからこそエッセンスが凝縮され、その文体はさながらロックのライブパフォーマンスのように疾走感があふれ、読了後はなんだか良いコピーが書けそうな気がしてくるからフシギだ。
いや、実際良いコピーが書けると思う。クリエイティブに関係する仕事をしているひとは、誰もが読むべきコラムであるし、そうでないひとも、“考えをひとに伝える”ということ学べるという意味では、必読といえるだろう。
※敬称略
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