書海放浪記
ハイデルベルグへの旅、1967年
父とドイツとニコンF
平田憲彦
第4回:ザイルバーンの老夫婦
絞りを開け気味にし、手前にフォーカスを合わせて撮られている。父にしては珍しく絵作りされた1枚。画面左、たたずむ老夫婦の後ろ姿への視点が優しいまなざしである。
写真評論的に見ると、ケルンで有名なザイルバーンのサインを兼ねたモニュメントに見える老夫婦らしき男女と、左手の老夫婦がコントラストとして効いている、などと書くことも出来そうなカット。共に、一人は帽子を被っているのだから、なかなかいい絵になっている。
映画に出てきそうな作為性があるが、これはおそらく偶然。父の目線の確かさと、このようなショットをものに出来た幸運に感心する。
ザイルバーンというのは、ライン川を跨いでるロープウェーのことらしい。しっかりと高度があるので、ケルンの街を一望できるということだ。
このザイルバーン、ロープウェーのことらしいが、写真で見るように二人乗りの小さなゴンドラである。
2011年のいま、ネットで検索するとブログ記事としていろいろアップされていて、ケルンに行ったことのない私でもその情報を知ることが出来た。44年経っているが、いまでもこのモニュメントがあるような気がしてならない。
父はこのザイルバーンに乗ったのだろうか。それはわからない。街を俯瞰する写真が残っていないので、もしかすると乗らなかったのかもしれない。だとすると、この写真を撮ろうと思った心の動きをあれこれと想像してしまう。
撮影:平田勝彦(1967年)
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